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「全員」の読み方は「ぜんいん」が正解!「ぜいいん」「ぜえいん」と発音される理由を音声学で解説

雑学

「全員」という言葉、あなたは普段どう読んでいますか?

実は多くの人が「ぜいいん」や「ぜえいん」と発音していますが、辞書では「ぜんいん」と記載されています。この違いに戸惑ったことがある方も多いのではないでしょうか。

この記事では、「全員」の正しい読み方と、なぜ実際の発音が辞書と異なるのか、その音声学的な理由を分かりやすく解説します。日本語の面白い音の仕組みが見えてきますよ。

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「全員」の正しい読み方は「ぜんいん」

結論から申し上げますと、「全員」の正しい読み方は「ぜんいん」です。

辞書に載っている読み方

国語辞典を調べると、「全員」の読み方は「ぜんいん」と記載されています。(参照:goo国語辞書Weblio辞書

一部の辞書では「ぜいいん」という読み方も併記されていますが、「不規則な仮名遣い」「口語」という注釈つきです。

「全」という漢字の音読み

「全」という漢字の音読みは「ゼン」です。「ゼイ」という読み方は存在しません。

全体(ぜんたい)、全部(ぜんぶ)、全力(ぜんりょく)など、どの熟語でも「全」は「ゼン」と読みます。したがって「全員」は「ぜんいん」が正しい読み方です。

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なぜ「ぜいいん」「ぜえいん」と聞こえるのか?

では、なぜ多くの人が「ぜいいん」や「ぜえいん」と発音しているように聞こえるのでしょうか?

これには日本語の音声学的な特徴が大きく関わっています。

日本語の「ん」は後ろの音で変化する

日本語の「ん」という音は、後ろに続く音によって発音が変わります。

例えば「さんま」の「ん」は唇を閉じて発音し、「さんた」の「ん」は舌先を上の歯茎につけて発音します。このように「ん」は後続する音に合わせて、無意識に発音方法を変えているのです。(参照:東京外国語大学言語モジュール

鼻母音という特殊な発音

「全員(ぜんいん)」のように、「ん」の後ろに母音(あ・い・う・え・お)が続く場合、発音が特に難しくなります。

この場合、「ん」は鼻母音という特殊な発音になり、前の母音を鼻にかけながら発音します。音声学的には、「ぜんいん」の最初の「ん」は、前の「え」という母音を鼻腔を通して発音することになります。(参照:大阪大学日本語ひろば

「ん」の後に母音が続くと発音しにくい

「全員(ぜんいん)」「満員(まんいん)」「原因(げんいん)」など、「ん」の後に母音が続く言葉は発音しにくい組み合わせです。

そのため実際の発音では、「ん」の部分が前の母音と同化して、「ぜーいん」「まーいん」「げーいん」のように変化します。この現象は音声学で「同化」と呼ばれ、発音しやすくするための自然な変化です。

「ぜんいん」から「ぜいいん」、そして「ぜえいん」への二段階変化

ここが重要なポイントです。音声変化は二段階で起こります。

第一段階:鼻母音化による「ぜいいん」への変化

「全員」は元々「ぜん+いん」という構造で、「エイ」という二重母音ではありません。

しかし、「ん」の後に母音「い」が続くため、「ん」が鼻母音化して前の「え」と同化し、「ぜいん」のように聞こえるようになります。つまり「ぜんいん」→「ぜいいん」という変化が起きるのです。

第二段階:母音推移の法則による「ぜえいん」への変化

日本語には「ei→e:」という母音推移の法則があります。これは「エイ」という二重母音が「エー」という長音に変化する現象です。

計画(けいかく)→ケーカク、制作(せいさく)→セーサク、先生(せんせい)→センセー、英語(えいご)→エーゴなど、本来「エイ」と発音すべきところを「エー」と発音していますよね。

第一段階で「ぜいいん」になった発音が、第二段階でこの法則に引きずられて「ぜえいん」へと変化し、最終的には「ゼーイン」という発音になるのです。

この二段階の音声変化こそが、「全員」の発音が「ぜんいん」から「ぜえいん」へと変わる仕組みなのです。

同じように発音が変化する言葉の例

「全員」と同じように、表記と実際の発音が異なる言葉は他にもたくさんあります。

満員(まんいん→まーいん)

電車の「満員電車(まんいんでんしゃ)」も、実際には「まーいんでんしゃ」と発音している人がほとんどです。「まんいん」と一音一音はっきり発音すると、かえって不自然に聞こえます。

原因(げんいん→げーいん)

「原因(げんいん)」も「げーいん」と発音されることが多い言葉です。

音声学者の上野善道氏によれば、日本語母語話者でも「原因(げんいん)」と「鯨飲(げいいん)」、「店員(てんいん)」と「定員(ていいん)」の区別ができない場合があるそうです。それほど「ん」の後の母音は聞き取りにくく、発音も難しいのです。(参照:大阪大学日本語ひろば

店員(てんいん→てーいん)

コンビニやお店の「店員(てんいん)」さんも、会話では「てーいん」と発音されています。「定員(ていいん)」との区別も難しく、文脈で判断することが多いですね。

放送業界における「全員」の発音規範

正しい日本語の発音にこだわるイメージのあるNHKアナウンサーですが、「全員」の発音についてはどうでしょうか。

NHKの公式な発音指導

実は、NHKの公式な発音指導では、依然として「ぜんいん」とはっきり発音することが基本とされています。

その理由は、「全員(ぜんいん)」と「定員(ていいん)」の聞き間違えを防ぐという放送上の安全策があるためです。放送では言葉を正確に伝えることが最優先されるため、曖昧な発音は避けられます。

NHKが2016年に発行した『NHK日本語発音アクセント新辞典』でも、「全員」の発音は「ぜんいん」として収録されています。(参照:NHK日本語発音アクセント新辞典

実際の発音には個人差がある

ただし、個人の癖として「ぜえいん」と聞こえる場面が出てくることは当然あります。

アナウンサーも人間ですから、完璧に「ぜんいん」と発音し続けるのは難しいこともあるでしょう。しかし、それはあくまで個人の発音の癖であり、局として「自然だから許容する」という段階には至っていません。

放送用語としては依然として「ぜんいん」が厳格な規範であることを理解しておく必要があります。

「ぜいいん」は間違い?それとも口語表現?

実際の会話で「ぜいいん」「ぜえいん」と発音するのは間違いなのでしょうか?

辞書学者の見解

『三省堂国語辞典』の編纂者である辞書学者の飯間浩明氏は、「ぜいいん」を単なる誤りではなく、「全員の口頭語形」として認識しています。

飯間氏は「『ぜんいん』のほかに〔話〕として『ぜいいん』(発音はゼエイン、ゼーイン)という語がある」と述べています。(参照:飯間浩明氏のX(旧Twitter)

つまり、話し言葉としての「ぜいいん」は、誤りというより口語的な発音として存在しているのです。ただし、これはあくまで「発音」の話であり、「読み方」ではない点に注意が必要です。

話し言葉としての「ぜいいん」

日常会話において「ぜいいん」「ぜえいん」と発音することは、自然な言語現象です。わざわざ「ぜんいん」とはっきり発音すると、かえって堅苦しく聞こえることもあります。

音声学の専門家も、この発音を「間違い」ではなく「音声変化」として捉えています。

書き言葉では必ず「ぜんいん」

ただし、書き言葉では必ず「ぜんいん」と表記するのが正式です。

ひらがなで書く場合は「ぜんいん」、漢字では「全員」と書くのが正しい表記です。「ぜいいん」という表記は正式な書き方ではありません。

文書やメール、レポートなどでは「ぜんいん」と書くようにしましょう。会話では「ぜえいん」と発音しても問題ありませんが、書くときは「ぜんいん」——これが現代日本語のルールです。

まとめ

「全員」の正しい読み方は「ぜんいん」です。辞書にもそう記載されており、「全」という漢字の音読みは「ゼン」であって「ゼイ」ではありません。

しかし、実際の会話では多くの人が「ぜいいん」や「ぜえいん」と発音しています。これは日本語の音声学的な特徴による二段階の変化です。

第一段階として、「ん」の後に母音が続くと発音しにくいため、「ん」が鼻母音化して「ぜんいん」→「ぜいいん」という変化が起こります。

第二段階として、日本語の「ei→e:」という母音推移の法則により、「ぜいいん」→「ぜえいん」という変化が起こり、最終的に「ゼーイン」という発音になるのです。

「満員」「原因」「店員」なども同じように発音が変化しています。

NHKなど放送業界では、「全員(ぜんいん)」と「定員(ていいん)」の聞き間違えを防ぐため、依然として「ぜんいん」とはっきり発音することが基本とされています。個人の癖として「ぜえいん」と聞こえることはあっても、公式な発音指導では「ぜんいん」が規範です。

話し言葉として「ぜいいん」「ぜえいん」と発音することは自然な言語現象ですが、書き言葉では必ず「ぜんいん」と表記することを忘れないでください。

言葉は時代と共に変化していくものです。「全員」という一つの言葉から、日本語の面白い音の仕組みが見えてきましたね。